ほんの些細な戯れに
「ねぇ、英くん…ここでキスして?」
目の前で小悪魔よろしく笑う幼なじみはいつだって唐突に英四郎を困らせる。
夜中だろうと、どんな朝早くだろうと、関係なく。
内容はその時々で変わる。結構深刻だったり、拍子抜けするようなものだったり様々だ。
面倒事に巻き込まれるのは甚だごめんだが、結局最後にはいつも美香子のペース。
それは別に悪い事ではないし、嫌な訳でもない。
けど、これは
「…どういう…意味だ」
「だから、ここでキスして~」
「今か?」
「今~」
これは、戴けない。
ふざけたような顔ではなく、真剣な顔で、英四郎を見つめていた。
「…時と場所を考えられない訳じゃないだろう…。却下だ」
今英四郎と美香子がいるのは、廃れたバス停。
飢え死に寸前のアストレアの為に、商店街に買い物にきた帰りだった。
朝からの晴天はどこへやら、突然雨が降ってきた為緊急避難中である。
「別に、誰もいないんだものいいじゃない~」
「人気の問題ではないだろう」
「………」
こんな風に美香子が悪のりして誘ってくるのは、いつもの事だから、英四郎はいつもそうするように美香子の視線から無理矢理目をそらして体も離した。
「いや」
「…美香…」
いつになく真面目な声音がして振り返ると、さっき開いていた距離がもう埋まっていた。
英四郎の手の甲に温かい感触。
「会長とキスしたくないの?もしかして英くん…会長の事嫌いなのかしら?」
「…なんでそうなる」
「誰もいないのにしてくれないから~」
「………」
そんなことを聞かれても困るだけだった。
英四郎にとっては人がいる、いないよりも、屋外など自分のプライベート範囲外だという事実の方が嫌なのだ。
そう言いたいが、何だか情けなくて、結局言葉に詰まってしまう。
「…してくれないのね~」
「当たり前だろう。そんな簡単に、」
言いかけた唇に当たる柔らかい感触。
英四郎の手の甲に重ねられた美香子の手に、ほんの少しだけ力がこもった気がした。
そして音もたたず、実に呆気なく離された距離の先には、恋人の満足そうな笑顔があった。
そこで初めて、血が巡る。
今、彼女がどんな気分でこの笑顔を讃えているか。
英四郎は、無意識に眼鏡のブリッジを押し上げた。
「…お前は…」
「英くんとキスしたい気分だったのよ~」
「だからといって…」
「少しは考えられないのか」
って、言いたいんでしょ~?とあざ笑うと、美香子は鼻を鳴らして立ち上がった。
「だって…いい暇潰しになったじゃな~い?」
気がつけば、先ほどまで降り続いていると思っていた雨は、いつの間にか止んでいた。
英四郎は漸く、これがただ単に美香子の暇潰しのために起こったことだと察した。
「暇潰し…か」
「ええ~…。なにか、不満でもあるの?」
「……もし、俺が止めなかったらどうするつもりだったんだ」
「あら~、英くんがそんな事言うなんて珍しいわね~…」
美香子はバス停から一歩踏み出して、雨上がりの空を仰ぎ、笑った。
「止まらないなら、止めなくていいのにね~」
と、小さく呟きながら。
*****
ちゅっちゅちゅっちゅ!
英くんは一回一回のキスにきちんと意味を持たせる、というお話をしたときのトキメキはいまでも忘れてません(何
美香子さんも英くんも、割りと受けっ子臭するので頑張って貰わないとね!!
「ねぇ、英くん…ここでキスして?」
目の前で小悪魔よろしく笑う幼なじみはいつだって唐突に英四郎を困らせる。
夜中だろうと、どんな朝早くだろうと、関係なく。
内容はその時々で変わる。結構深刻だったり、拍子抜けするようなものだったり様々だ。
面倒事に巻き込まれるのは甚だごめんだが、結局最後にはいつも美香子のペース。
それは別に悪い事ではないし、嫌な訳でもない。
けど、これは
「…どういう…意味だ」
「だから、ここでキスして~」
「今か?」
「今~」
これは、戴けない。
ふざけたような顔ではなく、真剣な顔で、英四郎を見つめていた。
「…時と場所を考えられない訳じゃないだろう…。却下だ」
今英四郎と美香子がいるのは、廃れたバス停。
飢え死に寸前のアストレアの為に、商店街に買い物にきた帰りだった。
朝からの晴天はどこへやら、突然雨が降ってきた為緊急避難中である。
「別に、誰もいないんだものいいじゃない~」
「人気の問題ではないだろう」
「………」
こんな風に美香子が悪のりして誘ってくるのは、いつもの事だから、英四郎はいつもそうするように美香子の視線から無理矢理目をそらして体も離した。
「いや」
「…美香…」
いつになく真面目な声音がして振り返ると、さっき開いていた距離がもう埋まっていた。
英四郎の手の甲に温かい感触。
「会長とキスしたくないの?もしかして英くん…会長の事嫌いなのかしら?」
「…なんでそうなる」
「誰もいないのにしてくれないから~」
「………」
そんなことを聞かれても困るだけだった。
英四郎にとっては人がいる、いないよりも、屋外など自分のプライベート範囲外だという事実の方が嫌なのだ。
そう言いたいが、何だか情けなくて、結局言葉に詰まってしまう。
「…してくれないのね~」
「当たり前だろう。そんな簡単に、」
言いかけた唇に当たる柔らかい感触。
英四郎の手の甲に重ねられた美香子の手に、ほんの少しだけ力がこもった気がした。
そして音もたたず、実に呆気なく離された距離の先には、恋人の満足そうな笑顔があった。
そこで初めて、血が巡る。
今、彼女がどんな気分でこの笑顔を讃えているか。
英四郎は、無意識に眼鏡のブリッジを押し上げた。
「…お前は…」
「英くんとキスしたい気分だったのよ~」
「だからといって…」
「少しは考えられないのか」
って、言いたいんでしょ~?とあざ笑うと、美香子は鼻を鳴らして立ち上がった。
「だって…いい暇潰しになったじゃな~い?」
気がつけば、先ほどまで降り続いていると思っていた雨は、いつの間にか止んでいた。
英四郎は漸く、これがただ単に美香子の暇潰しのために起こったことだと察した。
「暇潰し…か」
「ええ~…。なにか、不満でもあるの?」
「……もし、俺が止めなかったらどうするつもりだったんだ」
「あら~、英くんがそんな事言うなんて珍しいわね~…」
美香子はバス停から一歩踏み出して、雨上がりの空を仰ぎ、笑った。
「止まらないなら、止めなくていいのにね~」
と、小さく呟きながら。
*****
ちゅっちゅちゅっちゅ!
英くんは一回一回のキスにきちんと意味を持たせる、というお話をしたときのトキメキはいまでも忘れてません(何
美香子さんも英くんも、割りと受けっ子臭するので頑張って貰わないとね!!
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